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林原の向かいの席に戻った俺は、美月にメールした。
八神さんが俺に近寄っても来ないことを早く知らせて、美月を安心させてやりたかった。
ついでのように、駿さんとのランチはどうだったかを尋ねた。
本当は朝から気が気じゃなかった。
夕べ、俺の家に泊まった美月を俺が抱いたのは自明の理だ。それに嫉妬した駿さんが強引な行動に出たら?
また抱き寄せているかもしれないし、それ以上のことをしようとするかもしれない。
駿さんが美月の実の兄じゃなかったら、とっくに『もう会うな』と言っているところだ。
「なんか手塚先輩、ヤバいことになってるらしい。」
林原の言葉にハッとして顔を上げた。
「夕べ飲み始めてすぐ、八神さんは急用が出来たと言って居酒屋を出て行ったわけだけど、その後、村山たちのところに戻ったそうだ。」
「それって俺に追い返されて、ムカムカして飲まずにはいられなかったってことか。」
俺がそう言うと、林原は首を横に振った。
「飲みに戻ったんじゃない。実際、まったく飲まなかったらしい。居酒屋に戻ってくるなり、手塚先輩にちょっと付き合えと言って2人で消えたって。」
「まあ、当初の計画通りだな。手塚先輩もそれを期待してたんだから、別に問題ないんじゃないか?」
何か”ヤバい”んだか、わからない。
「問題は八神さんが相当切れてたってことだよ。今朝、手塚先輩の顔色が悪いから、村山がどうしたのか訊いたらしい。そしたら八神さんからハメ撮り動画が送られてきたんだと。」
「ハメ撮り動画?! 先輩、そんなの撮られて、何やってんだよ?!」
既婚者のくせに証拠を撮られるなんて、間抜けにも程がある。
「八神さん自身の顔は映っていないけど、手塚先輩の顔もイチモツもバッチリ映っていたそうだ。」
「それを奥さんにも送られたのか?」
「それがはっきりしないから手塚先輩は青くなってるんだよ。奥さんからはまだ何も言って来ていないけど、奥さんは元社員だから八神さんなら人づてに奥さんの連絡先を突き止められるだろう。」
「八神さんの狙いは? なんでコケにした俺じゃなくて手塚先輩をビビらせるんだ?」
「さあな。単なる憂さ晴らしじゃないか? とにかく、おまえも僕も逃げて正解ってことだ。」
手塚先輩は自業自得だが、合意の上でセックスしたのに盗撮して弱みを握るなんて、八神さんのやり方は汚すぎる。
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