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険しい顔で立ち上がった俺たちは、無言で社員食堂を出た。午後からの仕事に集中したいのに、八神さんのことが気になって仕方ない。
エレベーターに乗る寸前に、美月からのメールの着信音が聞こえた。
『八神さんのこと、少し安心したけど油断しないでね。すごく心配だから、今夜も慎一の家に行っていい? 夕食作って待ってるから。ダメ?』
「おまえ、顔がニヤケすぎ。美月ちゃんからだろ?」
言われた通りニヤニヤしていた自分に気付き、頬を引き締め直す。
『ダメ?』って、ダメなわけないだろ。美月が上目遣いで『ダメ?』と訊いてくる顔を思い描くだけで、ズクンと下半身が疼いた。
「仏頂面のおまえをそこまでニヤケさせるって凄いな。何だって?」
「八神さんのことが心配だから、今夜家に来るって。実は夕べも来てくれたんだ。」
「道理で。夕べ、八神さんの件でイライラしたはずなのに、おまえ、やけにスッキリした顔してるから変だと思ったんだよ。……でも、それじゃあ美月ちゃん、八神さんとニアミスか? 危なかったな。」
「ニアミスってほどでもなかったけど。まあ、そうだな。美月はヘタレだから、八神さんとかち合っていたら逃げ出したかもしれないな。」
そうならなくて良かったと、今更ながらホッとした。
「そうか。美月ちゃんはヘタレなのか。可愛いなぁ。」
ププッと笑った林原がしみじみと言うから、俺はムスッと黙り込んだ。
美人の美月が実は可愛いということは、俺だけが知っていればいいことだ。
「でも、2人が鉢合わせしてたら、逃げ出すのは八神さんの方だろ。美月ちゃんの方が断然綺麗だし、スタイルもいいし、若いんだから。」
「あの八神さんが逃げ出すか? あることないこと言って美月を動揺させて、俺たちの仲を引き裂こうとしたに決まってる。」
「確かにそうだな。実際、美月ちゃんは心配して泊まりに来るんだもんな。ホント、羨ましい。僕も今夜、おまえの家に行っていい?」
「来るな!」
「冗談だよ。」
美月との時間を邪魔されたくなくて必死になってしまった俺を林原が笑って、宥めるように肩を叩いた。
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