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グレイは家に向かうヴコの背中を真顔で見送る。
そして顔をふと、とても優しげに緩めて自分の方の窓に目をやった。
「──…!…」
その途端、グレイは思わず驚いて身を引いた。
窓ガラスに張り付く勢いで誰かが覗きこんでいる。
「まだ掛かりそうで御座いますかな」
執事のモーリスだった。
「奇特な登場の仕方をするようになったもんだな」
気配に気づかなかったことに少し焦りが窺える。
モーリスはほほっとなにか嬉しそうな顔をしながら右の助手席に乗り込んでいた。
モーリスは前のミラーから我が主をちらりと覗く。
「……なんだ? 何が言いたい?」
グレイは呆れながら尋ね返す。
「いえいえ…実にいいお顔をされるようになられたと思いまして……」
「………」
モーリスは無言のグレイにふふっと笑いを浮かべて返した。
いいことだ──
モーリスは前を見て顔を綻ばせながら目を伏せた。
魔物が人間のように感情を持つ──
良いことでは御座いませんか……
感情に支配される人間を愚族な生き物だと蔑みながらも魔物は何処かで人間の持つ“心”と言うものに憧れている──
だからこそ…
人間に成りたがる魔物も少なくはない。
永く永く果てしない命──
それに心の動きが備われば、まだ少しは生き永いことへの飽きも軽減されるかも知れない。
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