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グレイ様が人であったこの私を生かし、侍従として傍に置いたのは……
もしかしたら知らずのうちにグレイ様自身がそれを求めていたのではと。
“従順な侍従を傍に置くつもりでお前を選んだわけではない──”
侍従契約を結んだ際に確かにグレイ様は私にそう言った──
モーリスは古い古い過去を思い出し、またふふっと笑みを浮かべる。
「良いことです……うんうん、実にいいことだ」
グレイは微笑ましい笑みを一人浮かべて頷いているモーリスの背中を後ろから白い目で見つめる。
最近のモーリスは何気に父親気取りだ。
「たまになら上からの物言いも許すが──…見た目若くとも俺の方がずっと歳は上だからな……」
「ええ、もちろん承知しておりますとも……しかし…」
「………」
「ただ餌を狩るのみで永く生き続けた旦那様よりも私は数多くの“経験”とやらをしております」
「……っ…」
モーリスの小言にグレイはぐっと喉を詰める。
「永く生き続けるだけなら寿命さえあれば簡単なこと。人間の世界では経験が優遇されます故、旦那様は人間の世界に行けば使い物にもなりませんでございましょう……」
「──…!?…」
モーリスはまた、ほほっと笑っている。
歳を取れば皮肉もくどく、毒が増す。
だが憎めない──
グレイはムッとしながらもその表情を急に崩すと言い返すことを諦めたように顔を緩める。
そしてふっと軽い笑いを溢してまた窓の外を眺めた。
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