伝書鳩

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 それはもう何度も聞いている。 「畑でしたら、この職人地区の、ここです。ここに空きがあるのでそちらではいかがですか?」 「そこだと家から一時間かかるので嫌です」 「ここまでとそう変わらない距離ですし、いかがですか?」 「い、や、で、す」  俺の希望している土地は住宅地区になるらしく、畑ならと他の場所を勧めてくるのだこの担当は。 「土地代は払うんですから、家を建てようが畑を作ろうが構わないですよね?」 「ですがそこだけぽっかり空いてしまうのは、いかがなものでしょう」 「緑が爽やかでいいじゃないですか」 「土埃が爽やかですか?」  ニコニコと笑っているが、目は我儘言うなと訴えている。 「……じゃあ家。家建てます」 「小屋では駄目なんですよ?」 「どんな家に住もうが自由ですよね?」 「実はあの区画一帯に希望が入っておりまして、諦めて違う場所を選びましょう」 「えー。誰ですか俺の土地を狙うのは」 「まだあなたの土地じゃないですからね? 貴族街に店舗を持っている方なんですけどね、従業員宿舎を作るそうです。ここからなら商店通りと新店舗とどちらにもまあまあ近いということでして、ほぼ決まりなんですよ」  決まり、だと!?     
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