第13章 もう一人にする気はない

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「…。」 何か口にしようと思っても言葉が出てこない。彼は真剣な表情でわたしの目線を逸らさずじっと真っ向から見つめた。 「俺のこと、怖いか。…いいんだ、どう思われても。個人的な私怨も入ってることは否定しないよ。結局お前を守れなくて苦しい思いをさせた。それは自分の落ち度だし、悔やんでも悔やみきれない。でも」 わたしの頭に触れようとしたのか、手を伸ばしかけて思い留まったようにふとそれを強張らせ、引っ込めた。 「やっぱり絶対赦せない。俺の一番大事なものを傷つけた。その時のお前の恐怖や屈辱を思うと…。奴らにはそれを何倍にもしてしっかり味わってもらう。理不尽な復讐心も混ざってるかもだけど、そこは俺の気の済むようにさせてもらうよ。…朝方に一度帰る。お前は少しでも寝ておけ」 ふいと目を逸らして背中を向けた。玄関に向かう彼を呆然と見送る。しばらくそのまま動けずに立ち尽くす。 加賀谷さんは出て行くまで一度も振り返らなかった。 まさか眠れるとは思わなかったが、朝方まで意識は保たなかった。気絶するように気を失ってしまい、様子を伺いに寝室に入ってきた加賀谷さんの気配で目が覚めた。時間は割にぎりぎりだったので慣れない家で慌ただしく身支度する。彼は手早くわたしを車に乗せ、遠慮なく会社の近くに乗りつけて 「じゃ、今日は定時で引けろ。あまり休めてないんだから。帰りも迎えに来るから。後でまた連絡する」 と素っ気なく言い渡して去っていった。 「…矢嶋、今朝車で乗りつけてたな。あれ、新しい男?結局もう乗り換えたのか」 社食で麺類の列に並んでると後ろについた男に話しかけられた。聞き覚えのある声に振り向くと久々の顔がそこに。しかしなんていう物言いだ。わたしは肩を竦め冷たく言い放った。 「別にあなたには関係ないと思うけど、わたしが誰と付き合おうが別れようが。でもあれはやっぱり従兄弟なの。この間の子のお兄さん」 面倒だからそのままに思わせとくか、と半分本気で思ったけどあることないことこいつは言いふらしかねない。篠山はどういう訳か納得したように素直に頷いた。 「ああ、なんとなくわかるな。少し似てたかも、こないだのあの子に。何だ、じゃあ別れてないのか。あんな子どもじゃ物足りなくないの?いっそ兄ちゃんの方と付き合えばいいじゃん。案外お似合いじゃないか、そっちの方が?」 わたしは内心で意外さに目を剥いた。
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