第13章 もう一人にする気はない

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それ自体はやはり天性の嗅覚の鋭さっていうか、驚くよりないけど。わたしがいいお家の子っていう大嘘は信じても、わたし本人から受ける印象は変化しないってことか。ああいうタイプ、結局遊ぶ相手の女の子には不自由しないに違いない。あまり酷いことしないで最初からほどほどにすれた子たちを相手にしてくれたら別にいいと思う。 それにしても馴れ馴れしいことこの上ないったら。わたしは奴に触れられた頭の天辺を軽く払って顔を顰めた。気軽に触んなよマジで。昨夜のことが頭の端を掠める。不快極まりないあの男たちのことじゃなく、わたしを生真面目な表情でまっすぐ見つめてた加賀谷さん。家を出ていく間際に頭を撫でようとして躊躇うように引っ込めた。彼になら頭を触られたって別に問題ないのに。 それを、あの図々しいいけすかない男は。内心で不満をぶちまけながら、穏当な笑顔を浮かべてわたしは同期の女の子たちが固まる長テーブルに近づいていった。 定時の時間が近づく頃に加賀谷さんからLINEで連絡をもらい、車を停められるところで待ち合わせる。少し気になっていたことを言葉少なに尋ねる。 「あの、四人の人たちはもう解放されたんですか」 彼はちら、と視線をこちらに流しただけですぐ前方に向き直り短く答えた。 「まだ。明日の朝には帰してやらないとな。本人に職場と家族には連絡入れさせてるけど、あまり不在が続くと不審に思われるから」 一体拘束されてどんな目に遭ってるんだろう。とか、きっと知らない方がいいんだろうな…。 彼は淡々とした声で言葉を継いだ。 「心配するな。しばらくは俺が通勤の行き帰り、送迎する。解放されても奴らがお前に向かってくることはまずないとは思う。あの部屋には帰らないにしろ会社を辞める訳にはいかないもんな。あいつらは興信所にお前の身辺を調べさせたみたいだから、職場も恐らく知られた筈だけど。大丈夫、もう二度と変な気起こす気遣いはないよ」 「…うん」 小さく頷く。奴らを立ち直れないほど根元からぽっきり折るのも、会員たちに見せしめにして晒し者にするのもわたしを守るため。あいつらに出来るなら他の会員にもできる。絶対にそんな気を起こさせないように。それはちゃんと承知してる。 この人を怖がる必要なんかない。わたしを脅かすものにしかその牙は向けられない。そっと胸の内側でそう自分に言い聞かせる。
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