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わたしは物憂く頷く。嘘も方便だけど。連中のペットになる、なんて約束させられるより余程ましだ。
「とりあえず次の火曜だね。…でも真面目に検討してよ、ペット契約の話。うんと贅沢させて大切に可愛がるから。仕事なんか辞めちゃってずっと遊んでていいんだよ。悪い話じゃないよね?…まぁ、気が進まないっていうんなら、またここにみんなで迎えに来てあげるから」
笑いながらそう言ってわたしを引き寄せ、唇を重ねる。次々にキスされて胸が悪くなったけど、抵抗せずされるがままにしておいた。
だって、あと少し。こいつらが帰ったら。
わたしはやっと一人になれる…。
「考えておきます。…仕事も大事だし。とにかく、また火曜に」
「約束だよ。絶対忘れないで」
笑顔であのスマホが振られた。あんなことしておいてどうしてあんな顔で笑えるんだろう。
わたしにはわからない。
奴らはやっと帰っていった。扉を閉め、即内側から鍵をかけてダッシュで部屋の中へ戻った。何らかの形で鍵を手に入れたりしていてまたあいつらが戻ってきたら…と思うと。
ドアに背を向けるのは怖かったが背に腹は代えられない。優先順位ってものがある。むしろ、奴らが戻ってくる可能性があるなら一刻も急いでしなきゃならないことが。
バッグに駆け寄り、がくがく震える手でスマホを取り出した。頭ががんがん殴られたように変な音が脳内で響いてる。手先の自由が全然効かない。でも、何とか。…連絡先。…発信。
耳にそれを押し当てる。早く。…はやく、出て。
『…どうした、夜里?こんな時間…、何があった?』
何かを察した切羽詰まったその声。わたしは一言も答えられずその場でどっと泣き出した。
殆ど喋れなかったが、彼は概ね事態を理解してくれたようだった。尚も回らない口で一生懸命説明を続けようとするわたしを遮り、
『大体わかった、今から行くから。お前の部屋だな。ドアの前で電話するから、それ以外の時は絶対に開けるな。…それから、部屋の中のもの何も触るなよ。現場保存しといて。不快かもしれないけど我慢して、片付けないで。シャワーも浴びるな』
「わたし、服着てない…」
『わかった、タオル巻いとけ。クリニックの永田先生呼んでそこでお前の診察してもらうから。診てもらう間俺は部屋から出るし。とにかくもう今そっちへ向かうよ。夜中だし、十分か十五分で着くと思う。それまで待ってて』
そう言って本当に十分もかからず駆けつけた。
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