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『夜里。…開けて』
着信があって電話を切らずにそのままドアを開ける。彼は部屋に入って即鍵をかけ、すぐにわたしを両腕で抱きしめた。じっと黙ってしばらくそのままでいて、ややあってそっと離す。肩に手を添えて部屋に上がった。
「会員の奴らだな。…顔、見覚えあるか?」
わたしは頷いた。
「名前まではわからない。…でも、真剣に覚えたから。ずっと連中の顔見てたの、後で思い出せるように」
「偉いぞ。よく頑張ったな、きついだろうけど。…記憶の薄れないうちに、頼む」
ベッドに掛けようとしないわたしに無理強いはせず、テーブルに向かって床に座りわたしの目の前にタブレットを差し出す。手早く画面を操作して顔写真を何枚か出した。
「連中は四人か。…この中にそいつらはいるか?…これは?」
次々と出していき、真剣に見つめるわたしが指した男にチェックを入れる。その一方で電話をかけて何事か誰かに指図した。次に目にした写真にわたしは一瞬目を閉じた。
「こいつ。…わたしの、写真を撮ったの。スマホで。一枚くらいだったと思うけど。消してって頼んだけどそうした様子はなかった」
加賀谷さんは冷静な声で尋ねる。
「スマホの機種わかる?わかったらでいい」
わたしはなるべく落ち着いた声で答えた。
「iphone。多分、7だったと思う。そこはちょっと自信ないけど…、もしかしたら6かも。色は黒。少なくとも白とかシルバー、ゴールドじゃない。暗い濃い色だった」
「上出来。助かる、すごく」
そしてまた電話。目を閉じて彼の肩に寄りかかるわたしを支え、指示を終えるとそっとベッドにもたせかけて部屋の中をチェックして回った。
「悪いな、もっと支えててやりたいけど。こういうのは初動が勝負だから。そいつらが帰宅するかしないかのうちに抑えておきたいんだ。態勢を整える前にものを考える間もないくらい素早く叩かないと。…これ、回収するぞ」
ごみ箱を覗き、顔を顰めて使用済みのゴムを拾い上げた。わたしは慌ててティッシュの箱を差し出す。
「手、汚れるよ」
「洗えば何とでもなる。お前のされた仕打ちに較べたらこのくらい…。こういうもの、絶対的に証拠になるから。見てろよ、遺伝子情報まで全部洗い上げてやる」
呟いて持参したらしきジップロックに不快そうな顔つきでぽいぽいと手早く放り込んだ。部屋の様子をカメラで撮ってるうちに黒服に連れられたクリニックの先生が到着する。
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