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「連絡を待っている相手は、僕の上司です」
「上司?こんな時間にですか?」
「えぇ。僕はこう見えても、ある会社の重役秘書をしていまして。
夜でも突然の連絡に備えて携帯電話は手放せないんですよ」
「秘書!?あなたが???」
「随分と失礼なリアクションですね」
いやいや、だってそれは仕方がないだろう。
こんな、ほんわかした天然系に秘書が務まるとは思えない。
でも、確かに言われてみれば言葉遣いは丁寧だし、身なりも小奇麗だ。
一つ一つの動作だって、私はどではないけれど見栄えは悪くない。
「これでもそれっぽく振る舞っているつもりなんですけどね。
そりゃあ、あなたと比較したら見劣りはしますけど」
「どういう意味ですか」
「あなたもどこかの会社の秘書でしょう?違いますか?」
「……どうして」
彼は頬杖をつきながらにっこりと微笑んだ。
落ち着いた照明の下で見る彼は、なぜか妙に色っぽく見えてしまう。
「その分厚い手帳は自分のスケジュール管理のためだけではないでしょう?
金曜だろうが土曜だろうがあなたはどこかでお酒を飲んできた様子もない。
誰と会っても不快感を与えず、尚且つ存在を強調しすぎないためにほとんど香水の類は使っていないし、ネクタイの色はいつも地味過ぎない程度のデザインで寒色系ばかり。
その上あなたは、そんなに綺麗な顔立ちをしているのに極端に控えめだ。
それで思ったんですよ。
あなたは、あえて隣に立つ誰かを引き立てることを徹底しなければいけない仕事……
そう、秘書のような仕事をしているんじゃないかなって」
彼は一気に分析結果を伝えると、勝ち誇ったような顔を私に向けた。
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