プロローグ

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「作り笑いは得意なの」 そう言って僕の心を奪ったあなたは、何て酷い人だろう。 戦場のようなこの場所で、誰にも怯むことはなく そうかといって誰も傷つけたりしない。 決して枯れることのない美しい花のようなあなたは ただそこにいるだけで僕を虜にして離さない。 おわかりですか? 手を伸ばせば届いてしまうこの距離で 微笑みを贈ることしか許されない僕の苦しみを。 お気づきですか? 「好きです」という四字の言葉を、毎日のように言いかけて そして必死に呑みこんでいるということを。 それでも僕は幸せです。 あなたの得意な作り笑いを、一番近くで見られるのだから。 隣にいるのに残酷なくらいに遠いこの距離でさえ、僕にとっては特等席です。 僕の我慢や苦しみは些細なものではないけれど、逃げることはできません。 手放すことはできません。 湊さま。 もしも、たった一つだけ願うことを許されるなら 誰かの傍で泣いてください。 あなたが泣ける場所があるなら 僕がそこへ連れて行くから。 どうか心を殺したような 作り笑いをやめてください。 あぁ、誰か。 馬鹿だと言って笑って下さい。 そして不毛なこの恋を、できれば綺麗に終わらせて。
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