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女が好き。そうだ。私だって女性としか付き合ったことはない。
あんなに可愛い酒井さんだけれど、今更ながら彼は男性だ。一体、この先はどうしたらいい。
それに、一条朔也の言う通り、今日からまた四六時中湊さんと一緒の生活。
代表はしばらく今までの体制でと言っているから、私と酒井さんとはオフィスも別だ。
これはあまりに不利な状況じゃないか。
あぁ、やっと想いが通じても悩みは尽きない。
「我ながら名案だな」
「何がですか」
「秘書の交代だよ。酒井さんが秘書かぁ、楽しそうだな」
「私に何か不満でも?」
「別に仕事に不満はないけど、お前は可愛げがないんだよ。
もう少し俺に優しくしてくれたっていいだろう?
それに比べて酒井さんは、可愛いもんな。お前が気に入る気持ちもわかるよ。
俺も酒井さんだったら恋人にしても……」
「馬鹿言わないで下さい!さっき女が好きだと言ったばかりでしょう!」
「ムキになるな、冗談だよ」
「冗談に聞こえません。あまり軽口を叩いていると、湊さんに言いつけますよ」
「やめろよ!本当に冗談だ」
「どうでしょうね」
「おい、澤村……」
「告げ口されたくなかったら、馬鹿なことを言っていないで静かに座っていてください。
大体、秘書の交代なんてしたら湊さんに怒られますよ。
あなたの考えることなんて彼女には筒抜けでしょうから」
「……確かに」
一条朔也は肩を落としてシートに凭れ、少し静かになった。
これから言うことを聞かない時は、湊さんの名前を拝借しよう。
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