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「結局いつもこっちの負けなんだよ。俺が湊のことを追いかけるばかりでさ。
あいつは俺が浮気するなんて微塵も心配していないだろうな」
「まぁ、あなたの湊さんに対する態度は露骨ですからね」
「お前だって露骨だろう。あんなふうに嫉妬するなんて意外だったよ」
「仕方がないじゃないですか。諦めましょう。
どう平静を装ったとしても先に好きになった方の負けなんです」
「わかっているけどさ、少しくらい嫉妬させてみたいじゃないか。
お前だってそう思うだろ?」
「まぁ……」
酒井さんの嫉妬する姿……確かに見てみたい。
「なぁ!こういうのはどうだ?俺とお前とで浮気するんだ。
そしたら湊と酒井さんを同時に嫉妬させられるぞ!」
「私と、副社長が……」
「そうだ……」
「好きあっているフリをすると……」
「そう……」
「……」
「……」
「やめましょう!!!」
「うん、やめよう!!!」
「今想像したことは、お互い記憶から抹消しましょう」
「あぁ、凄く気持ちが悪かった」
「あなたが馬鹿なことを言うから、爽やかな朝が台無しです」
「本当にすまん。これは全面的に俺が悪い」
「さぁ、気持ちを切り替えて下さい。そろそろ会社に着きますよ」
なんだかんだと悩み事はなくならない。
けれど、それは昨日までの苦悩に比べたら些細なものだ。
さっき別れたばかりなのに、もう酒井さんに会いたかった。
酒井さんもそう思ってくれているんだろうか。
そんな期待が頭をかすめるだけで、心が温かくなった。
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