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もうすぐだ。
あと数分で、彼はテーブルに置いた携帯電話を手に取って、小さくため息をつきながらこの店を後にする。
一度見かけただけならば、日常の中の記憶にも止まらない風景の一部。
だけれどそれが数回続けば、そうはいかない。
目に映る彼の姿は見逃すことのできない強烈な印象になり、私の心に焼けつくような感情を残していた。
「誰からの連絡を待っているんだろう」
私の興味は、本当にただの興味だ。
同性の彼に、それ以上の特別な感情を抱いているわけでは決してない。
ただ、誰が彼にそんな悲しい顔をさせているのか。
それが知りたいだけだ。
これは余計なお世話だと、自覚はしている。
けれど私が気にかけることさえ止めてしまえば、弱弱しく息を吐く彼は目の前で壊れてしまうのではないか。
そんな不安が胸をざわつかせ、私にこの身勝手な行為を続けさせていた。
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