なかったことに、しましょうか

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「こんばんは」 声に驚き思わず見上げた。 初めてだ。 私と彼の視線がぶつかったのは。 色白で色素の薄い彼の瞳は、栗色に輝いている。 「相席してもよろしいですか?」 この状況を理解しようと、私は思考を巡らせる。 そして一つの解答に行きついた。 あぁ、私の行為に気付かれてしまったんだ。 何故だ。 何故気づかれてしまったんだ!? いや、今はそんなことを考えている場合ではない。 まずは、彼の問いかけに適切な返答をしなくては。 「どうぞ」 私は短くそう答えた。 「ありがとうございます。突然すいません」 「謝らないでください。謝罪するべきなのは私の方ですから」 私の顔が彼の目にもはっきりわかるくらい曇っているんだろう。 彼は口角をほんの数ミリだけあげると、柔らかな声で言った。 「やっぱり、僕はあなたに見られていたんですね」
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