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「申し訳ありません」
私は今までしたどの謝罪よりも丁寧に頭を下げた……つもりだ。
それなのに、目の前の彼は笑いながら私を見ている。
「どうしてそんな顔をしているんですか?」
拙い。うっかり思ったことが声に出てしまった。
軽口は私の悪い癖だ。
「どうしてって、面白い……というか、楽しいからです。
僕、こんなふうに男性に好意を持たれたのは初めてです。
でも、意外と悪い気はしませんね」
……はぁ?なんだって!?
好意!?
悪い気はしない!?
それは一体どういうことだ??
彼は私を同性愛者と思っていて、さらにそれを受け入れようとか、そういうふうに考えているということか???
そんなつもりはない!一切ない!!
頭の中は大パニックだ。
この状況をどうしてくれよう。
十分すぎるほど困惑しながら、必死に次に発するのに適切な一言を選ぶ。
こんな時ほど冷静に対処しなければ、互いに被害は甚大だ。
私は一条朔也にうるさく言われて身に付けた平静に見える顔で向き合った。
あぁ、あの男の秘書で良かった。
初めて私は自分の主に感謝した。
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