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「あの…、おそらく何か壮大な勘違いをされています」
「勘違い?」
「私は別に、あなたに好意を抱いていたわけではありません」
「あなたは好意のない相手を見つめていたんですか?
じゃあ、悪意ですか?僕、あなたに何かしましたか?」
「違います!悪意ではありません。
お願いですから、一気に質問するのはやめてください」
「すいません」
彼はしおらしく肩をすくめた。
「ただあなたのことが気になっていただけです」
私はありのままを伝えた。
『ただ気になっていただけ』
口にすると随分とそっけない。自分の感情はそんなものだったんだろうか。
でも、他に言いようがない。
『ただ気になっていた』
本当にそれだけなんだ。
「どうして気になるんですか?僕はとても普通だと思います。
特に目立つような行動をとっているとは思いません」
「確かにその通りです。ただ……」
言ってもいいのだろうか。
初対面の人間にこんなことを言われたら、穏やかそうなこの人も流石に気分を悪くするはずだ。
「この期に及んで隠し事はやめてくださいよ」
「そうですね。すいません」
「謝罪は結構ですから、理由を教えてくれますか?」
前のめりになる彼に問い詰められる。
風貌はおっとりしているように見えるのに、彼は想像以上に強引だ。
「あなたは……いつも携帯電話を見て、ため息をついてから店を出るものですから……
その……誰からの連絡を待っているのかと気になってしまって」
「……あははははっ!!なんだ、そういうことでしたか」
無理に笑ったように見えたのは、気のせいだろうか。
一瞬の沈黙が引っかかる。
でも、もしもこれが作り笑いなら、私はそれに気付くべきではないような気がした。
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