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その日は朝から泣き出しそうな空で、 午後からの小雨が室内にいる僕の腕にも 平等に冷たさを運んできた。 「寒ぅいわぁ」 僕の押す車椅子の中、 50代になる葉津乃(はつの)さんがぶるりと震える。 あ、と思った僕は 車椅子を室内の端にロックして声をかけた。 「いま羽織るもの取って来ますね」 進行した糖尿病のために目の見えない葉津乃さんには、特に気を付けて優しい声を出す。
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