トカゲのしっぽ

車内にて

は？何言ってんだ。

消える人間が、「今から消えますね！」とか言うと思うのか？

さらに言うなら「今から消えますね！」と言われて「どうぞ！」って答える人間もいないだろう？

「散々愛し合った翌日、置き手紙だけ残して消えるなんて。

それで " 別れた " だと？」

真咲の顔は怒りに満ちているのに、その顔を愛おしく思うなんて、俺も厄介な恋をしたもんだ。

姿を晦ませて数ヶ月。

あれから見かけることもなかった愛おしい人。

スーツのポケットから出されたのは、

離れてからこっそりポストに入れて返したモノ。

真咲の部屋の鍵が付いていた俺のキーリング。

あの頃使っていたまま、まだ鍵もついている。

どうやら逃げるために切った俺のしっぽは、真咲の元にまだあった。