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五章
城の使いの者があの娘を城へ迎える手配をしている。
王子との結婚式をあげるのだろう。
愛娘達が何故だと騒いでいるが、私の耳には届かなかった。
未だに、呆然としていると、ふいにあの娘がこちらを向いた。
その時に勝ち誇った顔をしてくれたら、あるいは、罵ってくれたら、私は、ここまで醜くなることはなかった。
あの娘は、私の目を真っ直ぐに見つめて、今まで世話になったと私に礼を言った。
あの娘が馬車に乗り込んで行く様子を私は、じっと見ていた。
その後ろ姿を見ているだけで、涙が出てきた。
その流した涙が、嬉し涙や会えなく淋しさのような清らかなものが一粒も混じっていないことを感じた。
そこから、ある種の潔さを自分の中に感じ、あの母娘の対極にある自分を肯定することで自分を保った。
ここで、私は初めて純粋な悪人になれたのだ。
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