あの日・・・

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「やめてっ! 死んじゃうよっ!」  冷たい風が吹き抜ける薄暗い倉庫に、泣きじゃくる子供の声が響き渡った。 「うるせぇ! どいてろっ!」  男が、子供を蹴り飛ばした。 「やめろ・・・・・・子供には手を出すなっ」  子供の父親が、血だらけの姿で声を絞り出した。  冷たいアスファルトの床に、父親と母親が血だらけで倒れていた。 「だったら、さっさと吐けっ!」  男が怒鳴り声を上げる。 「だから、何の事だかさっぱり分からないんだよ」 「ちっ、強情だな。子供が死んでもいいのか?」 「やめてくれっ! 本当に何の事か分からないんだ!」 「しらばっくれんな!」  男がナイフを手に、近づいていく。 「やめてっ、やめてってば!」  子供が震えながら、泣きじゃくる。  成海怜(なるみれい)、十歳。血だらけで倒れているのは、成海の父親と母親であった。  事の始まりは、三時間程前のこと。  世間はクリスマスに浮足立っていた。街は光り輝くイルミネーションで埋め尽くされ、幸せそうな家族や恋人達の姿が、そこここにあった。成海もクリスマスを楽しんでいた。三人でデパートに出掛け、プレゼントをねだり、大きな包みを満面の笑みで抱えていた。デパートを出た一行は、予約していたレストランに向かい、アットホームな雰囲気の中、美味しい食事を楽しんだ。 「父ちゃん、帰ってゲームしようよ!」  成海が父親にじゃれつく。 「はは、しょうがないな~、じゃあ、今日はみんなでゲームするか」 「わ~い」  どこにでもある、幸せな家族のひと時だった。 「じゃあ、帰るぞ~」  車に乗り込み、家路へと向かった。  成海は車の中で、買ってもらったラジコンが気になって仕方なかった。 「怜、ぶつけないのよ?」 「うん」 「さ、着いたぞ」  車を降り、玄関の鍵を開けようとしたその時。  近くに止まっていた車から、黒い集団が一斉に降りて来た。いきなり殴りかかってきて、父親も母親も気絶させられた。成海は目隠しをされ、手足を縛られ、車に運ばれた。 「大人しくしてろ、暴れると殺すぞ」  男の低い声が響く。  怖くて体がぶるぶると震えた。恐ろしくて声も出なかった。  何が何だか分からないまま、車は一時間程走り、成海は目隠しをはずされ、倉庫の中へと連れていかれた。
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