Ⅱ. 幸せな林檎

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**  祐基はJazzが好きだ。中学から大学まで吹奏楽部でサックスを担当していたらしい。  義母から当時のビデオ映像を観せてもらったことはあるけれど、祐基が恥ずかしがってから観ることはなかった。サックスを奏でることもすっかりなくなっている。  この家でJazzがかかっていることはあまりないけれど、CDではなく古いたくさんある祐基のレコードは全てJazz。ただそのレコードを祐基が聴いているところはあまり見たことがない。  私は祐基と結婚するまで、Jazzという音楽ジャンルがあることを知っているくらいで敢えて聴いたことはない。どちらかというとポップス系の音楽が好きで、日本語の方がいい。  この家で音楽をかけるときは、私の好きなジャンルになることがほとんどだった。  ある日、めずらしく一人で出かけた買い物から帰ると祐基が音楽を聴いていた。Jazzのレコードを私が使ったことのないレコードプレイヤーで。  私が帰ったことに気づいた彼は、レコードを止めて荷物を運ぶのを手伝ってくれる。 「祐さん、聴いてていいよ」  そう言ったけれど、当然のように手伝ってくれた。荷物を運び終わった祐基は、CDデッキに私の好きなジャンルの音楽をかけてくれながら 「僕もこの曲、好きだよ」  そう言って笑う。  私はお礼の代わりに、小さな林檎のうさぎを作る。  そうして林檎を食べながら、二人で並んで音楽を聴く。  隣から伝わってくる祐基の体温が、冷えた体をじんわりと温めてくれる。
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