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その3週間後、同じ警察署から電話がかかってきた。また遅い時間だった。
今度は警官相手に暴れたと言われた。
一度の説明では、まさか祐基のことだとは思えなかった。
迎えに行った警察署で、今度は祐基が謝っている。
そこにいた制服の警察官に私も謝ったけれど、何がなんだかわからないままだった。
一人の警官の顔に3枚の絆創膏が貼ってあった。祐基が暴れて引っ掻いたらしい。
祐基が書類を書くのを待っていたとき、絆創膏警官が近づいてきた。
「奥さん、病院に連れて行った方がいい。ご主人、踏み切りの前に立っていたんですよ。先日も今回も。私は何人か見ている。そしてその中の一人はそのまま線路の中に入った。ご主人を心療内科に連れて行ってあげなさい。手遅れになる前に」
父よりは若く、私たちよりは歳上のその警官はとても神妙な顔をした。
心療内科?この人は何を言っているのだろう?
車の中で何度か謝った祐基は黙りこんでいる。私はさっきの警官の言葉が頭の中に広がってしまって、そんな祐基にかける言葉を考えることができなかった。
「・・由美さん、ごめんね」
震えるように発せられた祐基の言葉に我に返る。
「祐さん、何かあったの?体調悪い?」
祐基は首を振りながら
「ごめんね」
と言っただけだった。
あの日から2週間、祐基はいつもと変わらない生活を繰り返している。私の料理を美味しいと食べてくれるし、数日に一度、必ず丁寧に愛してもくれる。
多分、警官たちは何かを勘違いしている。だから祐基も怒ったんだろう。
そう考えた。私たちの静かな時間は変わらない。
その日の夜、祐基に抱かれながら、小さな不安を打ち消すように彼の首に回した腕に力をこめた。
その瞬間、あの警官の言葉がいきなり脳内を巡ったのは、予感だったのかもしれない。
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