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どうしたらいいのかわからずに、実家に電話をした。
とにかくなんとかしなければという思いは、5年間付き合った恋人に振られたというショックをごまかしてくれている。皮肉なことに。
『帰っておいで』
母は淡々と言った。
『お見合いの話もあるから』
誰でもよかったんだと思う。今の窮地から救いだしてくれる人なら。
だから、お見合い相手に嫌だと思うところがなければお付き合いをしよう思っていた。
そして1ヶ月間、嫌なところがなかったら結婚しようと。夏に結婚式が挙げられれば誰でもよかった。それで会社を辞めることができれば。
そうして私は祐基に出逢った。
真面目を絵に描いたような人だと思った。雅也の勤める会社のライバル会社に勤めていることも、少しいいと思った。それだけだった。
そして付き合いを始めて1ヶ月、嫌なところは見つからなかった。
お仲人さんにお受けしますという返事を伝え、祐基から正式にプロポーズをしてもらったとき
『夏に間に合う』
そうとしか思わなかった気がする。
9月に式を挙げるため、私は7月に退職した。結婚式はハワイで挙げるので誰も招待しないことを侘びておいた。
誰も相手が違うことに気づかなかった。サチでさえ。
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