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私たちは、お互いの両親だけとの6人でハワイに渡り、式を挙げた。新婚旅行も兼ねてのパック旅行だった。
外国人の神父さんが話す英語の誓いの言葉はさっぱりわからず、祐基に続いて小さな声で
「yes.」と繰り返すだけだった。私は十字架の前で何を誓ったのだろう。
英語がわかる祐基が教えてくれたのは、要は日本でよく聞くのと同じだったらしい
『病めるときも、健やかなるときも、あなたはこの男を夫とし愛することを誓いますか?』
スウィートルームのベランダで、ホテルのはからいの甘いカクテルを飲みながら、前に座っている祐基を見つめながら、まったくドキドキもしない自分に少し驚いていた。
ぼうっと自分を見つめる私に、祐基は少し照れながら、でもとても真剣な顔で言った。
「僕は由美さんを幸せにします。約束します。あなたは僕の初恋の人なんです。結婚してくれてありがとう」
一歳年下の祐基は、私の中学の後輩だったらしい。私はまったく知らなかった。
「裏庭の銀杏の樹の下のベンチで、よく本を読んでいましたよね。吹奏楽部の練習中にいつも窓から見えてたんです。先輩だから声もかけられなかったけど」
祐基は私を見つめながら、懐かしそうに話す。
中学の頃、放課後の校内にいつも響いていた吹奏楽部の練習の音を思い出していた。
あの中に祐基の音もあったのかと思うと、今ここにこうしていることが不思議な感じがする。
銀杏の樹の下で読んでいた恋愛小説は、いつもハッピーエンド。あの頃、自分がこんな結婚をするとは思ってもいなかった。
ウエディングベルがハッピーエンドなら、そこから始まる私たちの物語はどんな未来になるんだろう。
これから始まる時間に、少し緊張しているような祐基を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
数時間後、祐基と私は初めて結ばれた。
大切に、大切に、壊れ物を触るかのように触れられながら、愛されながら、涙が出てしまったのはなぜだろう。
自分が夢見たどんな結婚とも違う現実が哀しかったのか、これほど丁寧に愛されなかった日々を懐かしんでしまったのか、これから始まる未来が不安だったのか、幸せになりたいと強く願いすぎていたのか。
この結婚が間違いではなかったのかという思いも少しはあったのかもしれない。
これからの私の人生の、幸せのカタチがどんなものなのかはよくわからなかった。
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