Ⅱ. 幸せな林檎

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 静かに時間が流れる。  私たちの新婚生活にはそんな言葉が似合う。  祐基の様子や表情、言葉からは私をとても愛してくれていることを感じられた。  雅也と付き合っていた頃、叔母が持ってきたお見合い話を断ったときに、彼女が言ったことを思い出す。 『好きだどうだって、そんなフワフワした感情は2年で終わるんだから。結婚なんてそんなもの』  あのときは、時代が違うと(うそぶ)いたんだ。  今の私には、彼女のあの言葉が支えになっているかもしれない。 『女は愛されて結婚するのが一番幸せになれるのよ』  彼女のそんなもうひとつの言葉と共に。  淡々と繰り返される日常は幸せだったと思う。真面目で優しい祐基は、最初の夜の言葉どおりに私をとても大切にしてくれた。  朝、仕事に行く。夜、帰ってくる。二人で食事をして、テレビを見て、何日かごとに丁寧に愛してくれた。  休みの日には二人で出かけた。それはちょっとした小旅行であったり、コンサートであったり、ショッピングであったり、ご近所の公園であったり。 「由美さん、週末どこに行きたい?」  いつもにこにこと優しい微笑みをくれながらそう聞いてくれる祐基との時間は、心の中にできていた傷にゆっくりと瘡蓋を作ってくれる。  心の傷は完治しなくても、愛されることで幸せになれるのかもしれないと思えている。  祐基の優しさに包まれていることで、私は二度と傷つかないと。  それでもときに言いようのない虚しさに襲われる夜は、夫に愛されている今の生活こそが幸せな結婚のカタチなのだと何度も自分に言い聞かせた。そうするうちに虚しさは姿を潜めていく。  祐基を心の中で裏切るような虚しさが湧き起こることも、過ぎていく時間の中で少しずつ間隔は広くなっていた。     
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