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床から常盤の方は見上げて言った。「側室」という言葉に、是豪の熱が急に冷めた。
「側室は、おってもな・・・・。時田のように同腹の兄弟でも家督争いは起こるものを、異腹の兄弟ではいっそう危うい。いくら控えめな女子とて、母ともなれば我が子を押し上げたいと思うものであろう。危なくていかん。」
時田の領主家の謀反は、領主・長国に対して同母の弟が起こしたものであった。それで隣国の医王院にも火の粉が降りかかった。その厄介さを思うと、側室との間に庶子を儲けることにはいっそうためらいを覚える。
「側室と子が増えて領国が危うくなるかもしれぬなら、本末転倒だ。それよりは、我が子の他に跡目を継がせねばならぬ場合は、一族衆の中の最も優れた者に継がせた方がよ
い。・・・・ご先代様がわたしを選んでくださった、領主としての志は見習わねばならぬ。そなたも、我が妻として得心してくれぬか。」
是豪の言葉に、常盤の方は頷き、夫の頭を己の胸に抱いた。
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