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是豪が持仏堂へ渡ると、澄慧は文庫から借りた文書を読んでいるところであったらしく、平伏した傍にそれらが置かれていた。「見苦しく散らかして申し訳ありませぬ」と、手早く片付けようとしたが、是豪は澄慧を止めて文書を手に取った。
「阿木那に関わる文書であるな。」
「はい。文庫の整え直しはまだ途上でございますが、阿木那への使僧のお役目をいただきましたゆえ、阿木那に関わる文書を菅原殿にお願いしてお借りし、読んで頭に入れております。」
早くも文庫の文書を存分に活用しているのだな、と是豪は思った。
――瑠璃が男であれば・・・・
是豪は、佐山医王院の領主であった祖父と父の言葉を思い出していた。
澄慧の母・瑠璃姫は、佐山の文庫の文書を、帳簿の果てまで見ていたという。一人では野駆けに行くのもままならぬ女の身であったため、文書を読むことで佐山の地を旅していたようなものであったろう。もし男に生まれていれば、その聡明さを佐山のみならず医王院領国のために活かせたかもしれない、と、祖父も父もその才を惜しむ心持ちであったのであろう。
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