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遠雷
是豪は、明け方に見ていたらしい夢をはっきりと覚えていた。
――兄上、幸千代君を、わたくしにくださいませ――
澄慧が幸千代を膝に載せ、頭を撫でながらそう言った。幸千代も嬉しそうに笑っていた。
夢の内容を反芻したところで寝返りを打つと、すでに目が覚めていたらしい、正室の常盤の方が声を掛けた。
「殿・・・・いかがなされましたか?」
「ああ・・・・」
是豪は床に起き上がった。常盤の方も起き上がり、衾を膝に掛けた。
「幸千代の夢を見ていた。・・・・どうしたものか。」
「はい・・・・」
常盤の方も視線を落とした。
先だって、二人の間の三男・幸千代が、僧になりたいと言い出した。当年六歳の幸千代にも、そろそろ傅役や小姓を付けねばならぬ頃だ。それに、本人が寺へ入りたいと言っても、是豪にとって子は常盤の方の産んだ男子四人のみ。もしものことを考えると、三男とて武将として育てねばなるまい。
「澄慧の意見を訊いてみたが、賛同はしかねると。」
「さようでございますか。」
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