散歩

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携帯のアプリでお気に入りの怪談動画を聞きながら気持ちをまぎらわす。しんなんりとした声が、折りたたむ様に次から次へと怖い話しを語る。ただ怖いだけじゃなく、道徳的な話しが多い。こんなのばっかり聞いているから、逝ってしまった人達の声が聞こえたり、影が見えたりするのかもしれない。 何時もなら 、二、三十分位でウトウトし始めるのだが、今日はだめだ。裸で寝転がっていた私は、簡単にT-シャツとズボンを穿き、携帯と煙草を持って裏庭から外に出る。こんな夜は、無理に寝ようとはせずに、散歩するのに限る。久々の散歩。去年までは、よく夜の散歩に出かけていたのだが、十四年間私の散歩パートナーだった愛犬のタンカ君が逝き、それ以降てっきり散歩の数が減った。 煙草に火を点け、空に向かって煙をはくと、紅い大きな月が出ている。遠くの方から聞こえる微かなサイレンの音、虫の声、犬の遠吠え。タンカ君が足にじゃれ付いて来るような錯覚におちいる。 本当によく散歩してたと思う。散歩の途中、他人のパーティーに混ざってビールを飲んだり、酔い潰れて、道の真ん中で寝てしまった事もある。そんな時、タンカ君は私の顔をなめて起こしてくれた。優しい子だった。 ラインの着信音、携帯を見ると彼女からだ。 「寝た?」 「アカン、寝られへん、散歩してる。」 「ふーん。」 三秒もしないうちに、携帯が鳴る。何時もの彼女の声、さっきとは違う優しげな声。 「どうしたの、少し疲れてる? 変な事言うから心配しちゃった。」     
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