散歩

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散歩

「最近さ、よく声が聞こえるんだ。それと、ちらっと人影みたいなのが、目の横に見えたりするんだ。でも、誰もいないんだよ。気にしないで、もう遅いから、また後で、おやすみ。」 そう言って携帯を切り、服を脱いでベッドに横になる。初めは気が付かなかったが、その電話の相手は、十代の頃付き合っていた妹みたいな子に、何処か感じが似ている。喜怒哀楽が激しく、感情のふり幅が大きい。子猫がそのまま人に成たような女性。どこか、ほおって置けない感じ。何時もそばにいてやらないとと思うが、過保護なのかも。それとも、たんに私が甘えたなのかもしれない。 ベッドの横の目覚まし時計の秒針がコツコツとうるさいので電池を外す。湿度が高いせいかやたらと寝苦しいが、天井のファンを点けると肌寒い。体は疲れているが、眠気を感じない。意識だけが拡大して行くのがよく分かる。 「もう、こっちに来ちゃいなよ。」と何時もの声が、死んでいった幾人かの声が頭の中に響く。 「駄目だよ、俺は最後まで生きるって決めたんだから。」     
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