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一目惚れって言ったら、嘘になるかもしれないけれど、出会いなんて、ほとんどそんな感じ。
高校に入学して間もない頃、桜の舞い散る中庭で、ほうきを片手に掃除していた時のこと。
「おいっ!」
頭上からそんな声がして見上げると、二階の渡り廊下から身を乗り出し、こちらを眺める笑顔が、澄みきった青空の真ん中に浮かんでいた。
私を見おろす瞳が、驚いたように見開かれる。
「あれ? ごめん。 間違えました」
その瞬間、少し長めの前髪が、ごく自然な感じで揺れた。
涼しげな目元が、やんわりと細まる。
照れたように、はにかんで笑ってた。
すぐ後ろを、誰かが走り抜けて行くのに気づき、その人が、また笑顔で声をあげる。
「あー待てよ! オマエのせいで、間違えちゃったじゃねーかよっ!」
意味がわからず、ぼう然と仰ぎ見ていると、そんな私の様子に気づいた相手がニッコリ。
手すりに積もった花びらをすくい取り、私の周囲にハラハラと、桜色の花びらの雨を降らせて去った。
「お詫びのしるし。ゴメンね」
そんな言葉と、春の午後の日差しのように柔らかな笑顔を、この胸の中に残して。
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