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「どうして雇ってくれないって言うの。ぼくが女じゃないから?」
絶望の色の滲む作った裏声に、特に興味を抱いたわけでなく。客の少ない時間帯の、暇つぶし
アクツ堂の店先の奥
陳列棚に並ぶ魚を指して「ぼくも売って」アクツ堂に自分を売り込みにきた男を見た
ふうん、ハーフか
僕の目に映る彼は色男。素肌にメンズシャツを羽織るだけの方が、似合いそうなのに勿体ない。ゆったりしたというより、ぶかぶかの絹のリボンシャツが男の魅力を台無しにしてる
「いや、問題なのは性別じゃない」
一般人は雇わない。ってことで、多少の乱暴をお目こぼしして貰ってるからねー。でも、方法はある
『ねむりひめ』は祭りだ
純粋に店の繁栄を祈り、神に贄を捧げる。この贄がたまたま人間で、たまたま通りかかった人が祭りに参加するだけ。誰が『ねむりひめ』になっても、問題ない
いいな、あの男
寵愛を解消され、捨てられ、パトロンに見向きもされなくなった現実を受け入れられず、もがいてる雰囲気は可哀想で、僕、ドキドキしちゃう
「ねえ、ぼく、いいとこのお嬢ちゃんのようでしょう。男は清楚な雰囲気に弱いのよ」
「いや、オッーー、オオ」
咄嗟に、男衆のスネを靴の先で蹴った。明らかにオッサン、言おうとした口を塞ぐためだ
足を抱え苦悶する男衆を、しっしっ
手で追い払った僕。僕の美しさに息をのみ、瞳に悲しみを浮かべ、驚きに声を出せない男にふわっと微笑みかければ、男の頬が紅潮した
「初めまして、アクツ堂店主のヨシキです。本日はどういった魚をご用命でしょう」
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