ごっこ遊び

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英国製のティーセットは僕のお気に入り。これで、たまに煎茶を飲む 和菓子職人の旦那様からの差し入れ、薄紅色の梅の花型の半生を戴くため。いそいそとカップに氷を落とし、冷たい煎茶を注いだ 《カラン》 なに、コレ。 煎茶の中で指輪を洗浄するのは巷の、流行? だとしたら、何とも傍迷惑なやり方だ。即座に廃れてしまえ 「気に入ってくれたかな」 人のお茶を台無しにしておいて、気に入ったかを、聞く? 相手は客、客客客客客客客 気持ちを落ち着けた僕は口角をキュッと上げ、ダメになった煎茶から視線を外し、男を見上げた 「うわ、予想以上。この指輪くらいじゃ、美しいキミはこの俺に、振り向いてはくれないかな」 両手を広げ、目を見開き、あちゃーというように額を叩いてから、僕の前に膝をつく ふむ。 相当、自分の容姿に自信があると見た 「僕を、買う?」 「そう。どこの店も積極的な客引きやってるのに、ここだけ、座ってるだけじゃない。だからかな、さすがの俺も興味が出たのさ、キミに、ね」 ・・・・・・・・・ぷふっ いまどき、チョキを作って額から斜め下に指をさげ、ウィンクする男がいたんだ。化石だよ、生きた化石 笑ってはいけない。笑ったらダメ この男で、遊べなくなっちゃう。お気に入りのカップに沈む安っぽい指輪を見下ろした僕は、笑いを飲み込んだ
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