藪からアクツ

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目の隅でアクツを確認。野次馬にお茶を出すよう指示したり、旦那様と身を寄せ話してる。よし! 一気に女将を追い詰めよう 「夢でも、見てたんじゃない?」 女将の眼が宙に浮く 蝋で塗り固めたような白い皮膚が癇癪を起こしたように、赤黒く染まって面白い。口の中で悪態をつく女将の胸元から顔あたりにうっすらと、白い脂が広がり浮き始めた 悔しいよねー わざとだって分かってるのに夢、な一んて認めるの。でもでも《悪いのは高崎屋主人だけ》狡い図式を作るためには必要なこと ふふ、ふふふ 僕が女将なら僕は、僕の手を取るなあ 女将は僕との仲の良さをアピールすることで、野次馬の関心を買い付けられる。人気を盾に高崎屋の看板女将となり、金蔓の主人を番頭や雇用人にあてがえば文句は出ない。はい、楽勝! 「そうね、少し、そうなのかしら」 石膏で固めたように表情を崩さず、口だけを動かした わくわくどきどき 毛虫を見るような眼を向けられるの僕、初めて。憎しみの念を女将が口から吐けるなら、ぶしゃーっ、全身に浴びてるかもね、僕 「やっぱり疲れてるみたいだね。戻ったら仕事でしょう? その前に僕の部屋で休むといいよ」 和菓子職人の旦那様に貰った厚い革のベルト、最初はあれがいい。着物を脱げと命じて、その手を打ちまくる旦那様の真似、一度、してみたかったんだよねー 「いや、休むべきはユキだ。心痛が重なったのだから、無理もねぇがな」 げっ、アクツ。 能面だった顔を恐怖で引きつらせ、毛玉から毛玉へ飛び移る虱より素早く、僕から距離をとる女将が遠ざかる もちろん、動いてるのは眼で弧を描いたムカつく女将じゃない。アクツに腕を引かれ連れ去られている僕だ
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