60人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は特等席に陣取るアクツの隣に座った。もちろん、ドーナツクッションは敷いてある
「きたね、器」
アクツ堂の器は入荷したばかりの両性具有魚。素人の男を刺身にするのは客ではないし、アクツ堂の人間でもない
ふふ、ふふふ
成り行きを見守る観客の眼に怯え、アクツに恐怖し、隣に座る僕を見て救いを見つけた顔をするのは同じ。どの魚も、僕なら助けてくれそうだと思うらしい
だから僕は、期待に応えてあげる
美しい瞳に薄く膜を張り、不憫な・・・・・・って表情してから、アクツを見つめ
「さっさと始めよう、待ちくたびれちゃった」
菊提灯のショーをおねだり。僕、好き。僅かな期待を笑顔で裏切った僕を見る、魚の憎悪を燃やす眼
「身の程を弁えろ」
憎悪を僕に向けた魚の腹をアクツが蹴った。ピチピチ跳ねる魚の髪を掴み《ペッ》唾を吐きかけ、小さなダンコンをグリグリ、靴先で踏み潰すアクツの悪党っぷりが素敵すぎて僕、胸がドキドキしちゃう
声を殺し泣く魚を男衆が立たせた
「手袋を嵌めろ。言われなくてもコレをどうするかは、分かるな」
はーい、先生。
腹の中をしっかり冷やすため、長さ40cm、茎の太さ22cm、亀の頭部23cmの氷の彫刻を突っ込めばいいと思いまーす!
「出来ないならお前にするだけだ。三秒待つ、さっさとやれ」
急がせるのには理由がある。刺身は鮮度がいのちだ、氷が溶けたら菊遊びは終了
ここにいる全員が楽しめるよう、気付け薬も用意してある
生贄が生贄を罰したあと、素人を虐待した罪で罰せられる両性具有の動向をじっと、見守る観客の眼が氷のダンコンを掴んだ魚を映し、愉しげに光った
最初のコメントを投稿しよう!