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「俺はあんな奴の会社継ぐつもりねぇし、あいつの息のかかった女とも結婚するつもりもねぇ。」
恭弥は親父さんを心底嫌ったような顔で言った。これは前から聞いていること。親父さんとの食事会の目的はお見合いで毎回違う社長令嬢を連れてくるらしい。毎回恭弥が行くのは行かなければいけない理由があるから。
「…母さんがもうあぶねぇらしいんだ。」
「…っ。」
「一ヶ月もてば良い方らしい。」
思わず抱きしめたくなる衝動に駆られる。手が伸びそうになるけどグッとこらえて恭弥の声を聞く。
「母さんを看取ったらあの家とは、あいつとは縁を切る。」
俺ができんのはその覚悟を聞いて見守るだけ。無力な俺は何もできない。多分こいつも俺に言いたかっただけで何をして欲しいわけでも俺を頼ろうとしているわけでもない。ちゃんと覚悟を決めた上での報告だ。
「…分かった。」
「…ふぅ。」
俺が頷いたのを確認してから恭弥が息をついてベッドから立ち上がった。
「ヒロ。こんな話の後だから言わなきゃなんねぇと思う、から言う。」
ベッドに座ったままの俺の前に膝立ちになって俺の両手を取った。やばい。風呂入った後で髪下ろしてるし暑いからって薄手のVネックシャツ着てるこいつの上目遣いは、凶器だ。
「なんだよこの格好。何手ぇ握ってんだよ!」
恥ずい。滅多にしねぇ真剣な顔しやがって。心臓がもたねぇよ。
「ヒロ。これは確信に近ぇんだ。でも“もしも”がある。でも言う。」
「だからさっきから訳分かんねぇよ。何言いた…」
「好きだ。」
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