もう半分の君と

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――また少し背が伸びた? けれど体の線は相変わらず細く、しなやかだ。 長いまつげが影を落とす瞳は物憂げで、見てるだけで溜め息が漏れる。 高校3年生の弟、朔が制服のネクタイを結ぶ姿を眺めながら、私は彼の朝食の後片付けをする。見てる事に気づかれないように、私はいつも意識して視線を逸らした。 「葉月。じゃ、行ってきます」 そして弟はいつもと同じように伏し目がちに私に礼を言い、登校していくのだ。 「気を付けてね」母親のように声を掛ける。 実際私たちにはもう2年前から両親はいない。そして私と朔は、血の繋がりもない 私の父と朔の母が再婚したのは5年前。そしてたった3年、家族ゴッコのような日々を過ごした後、二人は車で出かけた先で事故を起こしたあげく、あっけなく他界してしまった。 残されたのは小さなこの家と、物静かな15歳の少年と、短大を出たばかりの20歳の私。資産など無く、僅かな保険金も事故の賠償で消えてしまった。 『私が働いて高校と大学は出してあげる』 葬儀の後、途方に暮れた目で私を見つめて来た朔に、私は力強く言った。姉としての責任もあったが、けれどいっしょに暮らし始めて改めて気づいた。 私は単純に、朔が自分の元から消えてしまうのが嫌だったのだと。
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