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その日私はきっちり定時に職場を出て、買い物もそこそこに家路を急いだ。
今朝のはもしかしたら自分の勘違いか、もしくは朔の悪ふざけなのかもしれないと、仕事中ずっと考えた。
大体悪魔とか、馬鹿げている。早く帰って真相を確かめたかった。
西日が差す玄関を開け、リビングに飛び込むと、ラフな私服姿の朔がソファに座り、テレビを見ていた。普段観ることも無いスプラッターホラー。
「葉月ちゃんお帰り。一緒に見ようよ。スッゲーよくできてるよ、このゾンビもの。肉片すごい」
人懐っこい笑顔で手招きする。あんなに砕けた朔の表情を、私は見たことが無かった。
「学校で変な真似しなかったでしょうね。朔は受験控えてるんだから、内申点下げるようなことしないでよね」
「ん? 朔は大学行く気無いよ。卒業したら独り立ちしたいみたい。姉の世話になるのが苦しいみたいだね」
「え」
ドキリとした。まさか……。何かの間違いだ。
「ねえ、そんな事よりもっと楽しい話しようよ。朔の高校生活興味ない?」
しなやかな筋肉を感じさせる腕を伸ばして私の手首を掴む。
力に委ねて横に座ると、すぐそばに、血のつながらない弟の端正な顔があった。
途端に息苦しくて、逃げたくなる。
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