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私が見守って来た朔は控えめで礼儀正しく、少し触れただけで顔を赤らめるシャイな少年だった。そんな朔に、私はどこか惹かれ、そして守らなければと思った。
けれど目の前に居る青年はそれとは違う、言葉で形容できない感情を私に抱かせる。
ドキドキするとか有り得ない。これは朔じゃない。なのに……。
この状況をどう理解しようと、戸惑いつつ座っていると、悪魔はフッと立ち上がった。
「いいとこなんだけど僕トイレ行ってくるわ。そして残念ながら交代の時間。また明日ね、葉月ちゃん」
悪魔がドアの向こうに消えたあと窓の外を見ると、いつの間にかすっかり日が暮れていた。
そしてしばらくして戻って来たのは、私の良く知る、いつもの朔だった。
「葉月……、どうしよう。俺、……朝からの記憶がないんだ」
ホッとすると同時に、なぜか涙が滲んだ。そう、この純粋な青年が、本当の朔。
触れることの出来ない、大切な弟。
「きっと疲れてるのよ。心配しなくて大丈夫。ぐっすり寝れば……2日後にはすっかり元に戻るから」
人懐っこい笑みを浮かべる、触れたがりの悪魔は、もう2日で居なくなる。
◇
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