一心同体中年体

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 俺の名前は、上田二郎。  そんで、隣にいるこいつは相棒。  え? 驚いた? 本物か、って?  もちろん、本物。まぁ、最初見た人はみんな驚くよ。  でもさ、慣れればなんてこたぁないから、リラックスしてよ。  こいつさ、時々『下田一郎』なんて呼ばれてんの。  本名が上田二郎だから、洒落で?  確かに『相棒』なんて、何かのパクリだと思われちゃうもんな。  俺も、『下田』いいじゃん! って言ってやったのさ。  こいつもまんざらでもない、って感じでさ、嬉しそうだから良いか、ってね。  だから、俺たちは今じゃ 『上田下田』コンビ、って呼ばれているのさ。  知っての通り、ステージの上でコミカルな動きをするピエロは俺。  で、派手なズボン履いて、尖がった靴履いているのが下田。  舞台の上で俺を置き去りにして下田が動き回るわけ。  いやぁ。これが一番ウケるね。  お客さんは、嬉しそうに笑ったり驚いたり……。もうドッカンドッカンなわけよ。  ほら、人にはさ、『天職』ってあるじゃない。  俺たちの場合は、まさにそれだと思うんだよ。  な、下田もそう思うだろ?  「うん」だってさ。  俺たちは今日、舞台デビューする。   この道でやろう、と二人で決めてから、下町のバーやスナック、下手したらストリップの前座で、マジックショーに出させてもらっていた俺たち。  あれから20年。  ようやくちゃんとした劇場でパフォーマンスできるようになった。  そうそう、俺たちの他にもう一人ピエロがいるじゃん。あいつの名前なんだと思う? 「あ、わかった! 中田でしょ!?」  なーんて思った?  ざーんねーん。  あいつは、田中三郎。  本名なんだから、笑っちゃうだろう?  田中は「いっそ『中田』って呼んでくださいよ~」なんて言うんだけどさ、やだよ。  俺たちの間には、何人たりとも入る隙間なんてないぜ。  ははは。ちょっとうまいこと言ったな、今。 「な? 下田?」  下田は俺を無視して、ごろりと横になっちゃったよ。  まあ、こいつはいつもこんなもんだ。
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