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「上田下田さん、田中さん、出番でーす」
楽屋でくつろいでいた俺たちのところに、スタッフが呼びに来た。
「おい、田中。お前、俺たちと入れ替わるとき、モタモタすんなよ?」
俺が文句を言うと、田中のやつは「うっす」なんて返事しやがる。
「若いやつは、なってねーな、下田」
俺がぼやくと下田も賛同する。
さすがは、俺の相棒だ。
「俺たちはさ、ほら『一心同体中年体』だもんな」
俺がニヤリと笑うと、なんだそりゃ、なんて下田のやつがケリを入れてくる。
だってさぁ、俺たちもうすぐ40だぜ。
中年じゃんよ。
俺が言い返した時、ステージからドラの音が聞こえてきた。
いけね、出番だぜ。
俺たちは揃って『迫』に乗った。
ドラのドーン、ドーンという音に紛れて、ギシギシいいながら迫が上がり切ると、目の前には黒い箱。
回転扉がくるりと回って、田中が現れた。
「上田下田さん、よろしくっス」
一瞬の暗闇に紛れて、俺たちは胴体の部分だけが覆われている箱の中に入る。
もう何度と繰り返して来た動作だ。
目を瞑ってもできるけど、やっぱり今日は緊張するな。
「下田、初舞台! 暴れようぜ!」
俺が奴の尻をポンと叩くと、下田が靴をコツンと鳴らして、返事を返す。
舞台の上じゃあ、スネアドラムの音に合わせて、ピンスポットライトが俺と下田の間を小さく照らしている。
マジシャン半田がギラッと光る巨大サーベルを振り回して、舞台俳優みたいに勿体ぶった構えで、俺と下田の間にサーベルをえいや、と差し込んだ。
「ぐえぇぇぇぇ」
お客さんからは、顔はあんまり見えないだろうけど、俺はめーいっぱい派手に顔を歪ませて、両手を振り回した。
下田も足首をグルグル回している。
マジシャン半田はこれ以上のないドヤ顔で、シンバルの音と同時に、胴体部分の扉を開け放した!
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