一心同体中年体

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*** 「上田下田さん、田中さん、出番でーす」  楽屋でくつろいでいた俺たちのところに、スタッフが呼びに来た。 「おい、田中。お前、俺たちと入れ替わるとき、モタモタすんなよ?」  俺が文句を言うと、田中のやつは「うっす」なんて返事しやがる。 「若いやつは、なってねーな、下田」  俺がぼやくと下田も賛同する。  さすがは、俺の相棒だ。 「俺たちはさ、ほら『一心同体中年体』だもんな」  俺がニヤリと笑うと、なんだそりゃ、なんて下田のやつがケリを入れてくる。  だってさぁ、俺たちもうすぐ40だぜ。  中年じゃんよ。  俺が言い返した時、ステージからドラの音が聞こえてきた。  いけね、出番だぜ。  俺たちは揃って『迫』に乗った。  ドラのドーン、ドーンという音に紛れて、ギシギシいいながら迫が上がり切ると、目の前には黒い箱。  回転扉がくるりと回って、田中が現れた。 「上田下田さん、よろしくっス」  一瞬の暗闇に紛れて、俺たちは胴体の部分だけが覆われている箱の中に入る。  もう何度と繰り返して来た動作だ。  目を瞑ってもできるけど、やっぱり今日は緊張するな。 「下田、初舞台! 暴れようぜ!」  俺が奴の尻をポンと叩くと、下田が靴をコツンと鳴らして、返事を返す。  舞台の上じゃあ、スネアドラムの音に合わせて、ピンスポットライトが俺と下田の間を小さく照らしている。  マジシャン半田がギラッと光る巨大サーベルを振り回して、舞台俳優みたいに勿体ぶった構えで、俺と下田の間にサーベルをえいや、と差し込んだ。 「ぐえぇぇぇぇ」  お客さんからは、顔はあんまり見えないだろうけど、俺はめーいっぱい派手に顔を歪ませて、両手を振り回した。  下田も足首をグルグル回している。  マジシャン半田はこれ以上のないドヤ顔で、シンバルの音と同時に、胴体部分の扉を開け放した!
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