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「わぁ! 海、綺麗だね!」
目の前に広がる海に、私は歓声をあげる。
「うん。久しぶりに乗ったけど、やっぱりいいね」
はしゃぐ私を楽しそうに見つけた後、おかしいね。浩二は笑った。
「何がおかしいの?」
不思議に思い尋ねると
「いや、何か最近の由衣さん、似てるなと思って」
心臓がドクンとする。
「ほら、俺の幼馴染。よく話してるでしょう? そいつにリアクション、由衣さんここんとこ似てて」
「…そうなんだ」
どんな子だっけ? 平静を装いながら、聞く。
「面白い奴だよ。いつも元気で、人懐っこくて。あいつは誰とでも仲良くなるんだ」
「すごいね」
「うん。俺、少し人見知りだから羨ましいくらい。でもあいつがいつも先頭きって、はじめましての奴でも話しかけてくれるから、俺感謝してるんだ」
「そっか」
「でもさ、あいつ自己評価やたら低くてさ。いつも、もっともっと、て言ってるんだ。そのままで十分なのに、私には足りない物ばかり、て」
贅沢者だろう? そう笑う浩二は、私のよく知っている、だけれど知らない大好きな浩二で。
「…由衣さん?」
零れそうになる涙を見せたくなくて、下を向いた。
「どうしたの? 俺何か変なこと言った?」
違う。違うんだよ、浩二。
嬉しくて、でも悲しくて。そんな気持ちきっと浩二にはわからない。
「ううん、何でもない」
私は、羨んでいた由衣さんの綺麗な顔で、飛び切り可愛く笑って見せた。
浩二は、はっとした顔をして、瞬間目を伏せる。
そして、意を決したように、こちらに近付くと、そっと顔を寄せた。
ごめんなさい、由衣さん。
一度だけだから。これで最後にするから。
はじめてのキスは、浩二のために塗ったグロスの味がした。
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