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次の日目覚めると、知らないベッドの上にいた。
レモンイエローの小花柄のシーツカバー。枕元に置かれたサッカーボール型のクッション。
窓から差し込む光は、ブラインドではなく、レースのカーテンによって遮られている。
「…え? ここ、どこ?」
見慣れない部屋。びっくりして飛び起きる。
周りを見渡すと、壁際に置かれた鏡が目に入った。
そこには、綺麗な女の子がいた。フリルのついたパジャマを着て、袖から除く手足は、華奢で白い。美しい髪は腰まで届いていた。
「…由衣…先輩?」
私は、由衣先輩になっていた。
「どうして? 私が…由衣先輩に?」
動揺でめまいがした。
そのとき、テーブルに置かれた携帯が震えた。
恐る恐る手に取り、ロックを指紋で解除すると
《おはよう。今から朝練行ってくる。》
浩二からのメッセージ。
「やっぱり…本当だったんだ…」
二人のやり取りの履歴を見て、愕然とする。
浩二は毎日、由衣先輩にメールをしていた。
朝、昼、夜、幾度となく。由衣先輩の携帯には浩二からの連絡が入っている。
「私には、自分からメールくれなかったくせに…」
いつだってメールするのは私からで、浩二にそう言うと、愛美が先にくれるから。とメール下手だから助かる、と、言っていたくせに。
由衣先輩は特別なんだ。
《由衣さん?》
携帯を持って立ち尽くしていると、浩二からまたメッセージが入った。
《…今日は昼休み会える?》
そのとき私は今までにないくらい強い嫉妬を覚えた。
ずるい。こんなに浩二に好かれて想われて、ずるい。
たまたま、可愛く生まれただけなのに、綺麗だっただけなのに、それなのに浩二に好かれるなんて、不公平だ。
ずっと隣にいたのは私だったのに。私のほうが浩二のことを知っているのに。
何年もずっと浩二だけを見てきたのに。
黒い気持ちで心が支配される。
胸がぎゅっとなり、苦しい。
「あ…」
そうして私はやっと気付いた。私由衣さんだ。どうしてだかはわからないけれど、今私は由衣さんになっている!
浩二の好きな由衣さんに、私がなっている!
《もちろん! 早く浩二に会いたいな》
由衣さんの私は、浩二にメッセージを送り返した。
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