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~ギリシャ神話の一節~
竪琴の名手とされたオルフェウスと森の妖精エウリディケが恋に落ちるが、恋人のエウリディケは毒蛇に咬まれて命を落とす。
愛する者の死が受け入れられないオルフェウスは冥界まで行き、冥界の王ハデスの元で愛する者を想いながら竪琴を奏でる。
その音色にハデスは心を動かされ、一度だけエウリディケを生き返らせると約束する――――
これは、こと座にまつわるギリシャ神話。ギリシャに伝わる七夕伝説の元になったと言われる一節だ。
俺は朔奈がいなくなった事実を受け入れられず、学校にすら行けずに部屋に閉じこもっていた頃……朔奈が亡くなる前日に織り姫の話しをしていた事を思い出し、何となく七夕について調べたことがあった。
そこで目にとまったのがこのギリシャの七夕伝説。愛する者が、冥界から現世に帰ってくるという事が、妙に印象に残っていたから覚えていた。この神話がその後どうなったかは、ほとんど覚えていない。
ただ、漫然とこの一節を思い出していた。
目の前には信じられないが、朔奈がいる。俺は、これが事実だと脳でしっかり認識した後、おもむろに叫んだ。
「……いたっ! 朔奈が、いたっ!!」
これは感極まっての叫びではない。他の4人、共に朔奈を探している仲間に向けたものだ。
俺の声を聞きつけ、続々とみんながこの場に集まってくる。もし関係ない生徒がまだ教室棟にいて、俺の声につられてここに来てしまったらどうしようとか、そんなことを考える余裕はなかった。
近くを探していた美香が一番早く駆けつけ、朔奈の姿を見た瞬間、膝から崩れ落ちて泣き出した。
それを見て、俺以外にも朔奈が見えていることを……確かに今そこに朔奈がいることを確信する。
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