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「……逆に、あなた様は、どうしてここに」
「そうねぇ。永遠の命を絶ちに、かな」
絶句した小夜子に、畳みかけられる言葉。
「私は、魔女なのよ。この国にさまよい現れた、不死の魔物」
「まじょ……」
小夜子が想い浮かべたのは、図書館の片隅で見た、奇矯な絵柄。月の下、箒にまたがり夜を飛ぶ、黒いドレスの老婆。
虚言癖か、確信的な嘘つきか、それともまさか――。
「この夜空がなくなる前には、朽ちたいものよねぇ」
――狂っているからこその、美しさなのか。
「あなた、お家は? どうしてここへ」
「二千年も血統を保った国家だもの。逆に、不死の殺し方くらいあるかなって」
「……そのような、ことでしょうか」
狂ったような物言いを続ける少女に、曖昧に頷く小夜子。
「――あなたも、帰るには難しい心境でしょう」
だが、たまに見せる、こちらを伺うような言葉。
どこか胸を、冷たくさせる。
そして少女の言葉のとおり、確かに小夜子は、今、寮へ戻る気にはなれない。
(……いえ)
寮を抜け出した理由を考えれば、もう、その行為を考えることはできないとも想える。
――だがそのためには、どちらにしろ、少女がいては実行できない。
「面倒なんだよねぇ、不老不死。いつかは別れがあるし、もし気づかれると好奇の眼で見られるし」
「まるで、長い時を生きてきたような物言いですね」
会話に満足すれば、消えてくれるか。
小夜子はそう願い、適当に相槌を打つ。
「永遠の存在、羨ましいです」
――そうだ、もし、正気でない相手なら。魔女と名乗る、闇なら。
語ってもいいはずだ、と、小夜子は考えを変える。
「……私は。永遠になりたいと、願っていますから」
――胸の内に秘めた、どうにもならない欲望を、口にする。
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