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その、白すぎる彼女の腕が、小夜子の喉元に触れた瞬間。
「……っ!」
全身がふるえ、血の気が引き、小夜子は身動きがとれなくなった。
なのに首回りの熱だけが、彼女のひやりとした手と対比するように、ひどく熱くなった。
「あなたの喉元は、これから、違う世界を呑み込むのよ」
「っ……」
首筋に突き立てられる、五本の痛み。それは、針の痛みにも、包丁の切り傷とも、似て非なるもので。
(く、る、し……)
「永遠への始まり、知ってるかしら」
少女は、まるで三日月のように、紅い口元を歪めた。
「――この世界への別れ。死から始まる、再生よ?」
「……っ!」
その時、小夜子の胸に、感情がほとばしった。
――永遠を望んだ理由。変わってほしくない、あの方との時間。
(違う、違うの……!)
少女の誘いの意味を、瞬間的に小夜子は察知した。その道を踏み出せば、胸に秘めた想いは、本当に"永遠に"とらわれてしまうものなのだと。
だからこそ小夜子は、痺れる全身をふるわせ、叫んだ。
「いやっ!」
――その想いが、異なる想いに、塗り潰されてしまいそうだったから。
「あっ……」
荒く息をつき、かすれる声を漏らしながら、ようやく、視界が冷静になった頃。
「いい反応だったわ」
橋の上に突き飛ばされ、座り込む少女の姿が、とらえられた。
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