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「ごめんなさい……」
手をさしのべながら、手加減していなかったことをわびる。
「謝る必要はないでしょう?」
小夜子の手を借りながら、少女は「ありがとう」と言いながら立ち上がる。
次いで視線を空へと移し、瞳と同じ満月と相対する。
「夜空の星になるのは簡単よ。言ったでしょう? ――あれらはもう、過去の光だから」
「過去の、光……」
「それを知った者と、見つめ合う気持ち……星もあなたも、寂しくないかしら」
少女の問いかけに、首元がうずく。
――殺されかけたのに、責める気にはなれない。誘ったのが自分でもあると、心の端で感じていたのもあったのだろうか。
痛みを指で触れながら、小夜子は、違う問いを投げかける。
「なぜ、私とあの方のことを、ご存じなのですか」
「知らないよ」
眼を見開く小夜子に、少女は笑いながら答える。
「女学生の悩みは、恋か家か自立か、そのあたりかなって。で、図星一番目だっただけ」
「……っ!」
小夜子は、顔の赤らみを自覚できた。見抜かれた自身の不覚が、情けなかったからだ。
「だから寂しくなったあなたは、星になれば、また見てもらえると想ったのかなって」
話を聞きながら、小夜子は、ぎゅっと欄干を握りしめる。
「……せめて、過去になれるなら。永遠の星に、想ってもらえるなら。ずっと、あの方の心には、一緒にいられるんじゃないかって」
その、封じきれなかった想いが、言葉として漏れる。
「記憶に残る、ってことかな」
「あの水面の月光が、空の星々への入り口のように、想えたから」
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