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「水面の月光が、星へ通じる……」
沈み込むようにそう呟いた少女は、沈黙し。
「……く、くくっ、ふふっ」
「あ、あの?」
次いで、なにかに耐えきれなくなったように、笑いをあげる。
「いやぁ、ステキだよ。あなた、詩人になれる才能があるんじゃないかな」
「なっ……!」
彼女の言葉は、小夜子の感傷的な心に傷をつける。
「あなた様に、笑われるいわれはありません!」
「褒めてるのに」
「私は、詩人になりたいわけではありません」
「じゃあ、何になりたかったの?」
「それは……」
小夜子はためらい、振り返る。
――良妻賢母を旨とし、男子主体の社会には溶けこめない教育を受け、卒業しないことを望まれる、女学生。
「自立した、大人の女性に。周囲に流されない、あの方のように」
子女達の歓談も、授業以外の知識も、なんなくやりこなす姿。あの方と特別な関係を結び、時間を過ごせたことは、小夜子にとって幸福なことだった。
「へぇ……。自立した大人の女性が、うまくいかなくて星になりたいなんて、メルヘンなお話だねぇ」
――ゆえにその指摘は、小夜子の胸を抉る。
「……っ!」
「まぁ、本物になるか偽物になるかは、これからってところかな? 人生、短いけど長いから」
「見知ったような……。私とそう、変わらないお年でしょうに」
怒気を抑えながら、声をふるわせる小夜子。少女は、まるで気にしたそぶりもない。
「言ったでしょう。永遠に、生きているって」
「……異国の方は、そうした価値観も普通なのでしょうか」
「古今東西、不死を求めるものは後を絶たない。水銀を飲み、月の薬を求め、理想の身体をつなぎ、若い血を浴びながら、仮初めの安心を得たものよ」
恐ろしいことをさらりと告げる少女から、小夜子は眼を外し。
「私が求めているのは、そういうものではありません」
「じゃあ、なんだろうね」
少女の、わかっているがゆえの問いかけに、小夜子は吐息をこぼす。
「――あの方が、嫁ぎ、別れる。それが、こんなにも……辛いだなんて」
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