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 目覚ましの音が響かない。響いていないのか聞こえなかったのか。体中の血液が温度を上げたようで冷や汗をかくようだ。既視感に襲われる中、右手はスマホを探す。このあたりで油断してはいけない。思い出している自分がいる。何を。そう、つい一時間半前、いやもう少し近いかもしれないし、あるいはその逆。要は今二度目の起床である。目覚ましが鳴る前に起きた。きっとそうだ。カーテン越しに室内に流れ込もうとする光は弱く、まだ日が出始めたばかりだろうと予測を立てる。しかしまだ時間を確認できていない。それができるまでは気を抜いてはいけない。油断していると足元を掬われるのだ。と、昔の人は宣っていたようだ。先人の知恵は尊重するタイプの僕はそれを素直に受け止めている。さあ、その四角い我が人類の文明の結晶ともいえる利器よ、その液晶を煌々と輝かせてくれ、そして安心させてくれ、早く。
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